第 3034 号2007.03.18
「 それぞれの春の風 」
匿 名
木の板に行儀良く並んだ数字を見て、笑う、泣く、歓声をあげる、そして時には無言で立ち去る。今年も又繰り返された合格発表の風景だ。
息子も昨年、初めての受験をした。中三での不本意な転校と、その後の幾たびかの挫折を繰り返し迎えた入試。結果は最悪と予想された。
そしてその最悪の時の為にと、私は息子に掛ける言葉をずっと考えていた。
「合格の切符は手にできなかったけど、お母さんは君に最高の金のメダルをあげるよ。一年間本当によく頑張ったね。」
果たして息子に面と向かって、ドラマのワンシーンの如くこんな台詞が言えるのかは定かではなかったが、時は冬季オリンピック一色に染まっていたので、半分ジョークで照れ隠しをしようと。
我が家はたび重なる引越しで、子供達を何度も転校させてきたが、今回に限り、息子曰く
「もういいかげんにしてくれよ。」
志望校も決め、今度こそは友達と同じ高校へ通いたいと真面目に勉強していた息子を、又人知れず泣かせる事になってしまうんだなあ。
でも、辛くてもそれが我が家の宿命なのだ。いつも引越しのたび“リセット,リセット”と言い聞かせてきた言葉はもう息子には届かなかった。
あれから十一ヶ月。幸いにも、私は息子にあの“最悪の時”の言葉を言う必要は無くなった。でもいつの間にか、幾つものハードルを乗り越えてくれたのかな、と思うと、やはり金メダルものだよ。
目の前の合格発表の掲示板にある番号も、又無い番号も一つ一つ全てにドラマがあって、やっぱりどれも皆金メダルものだ。
受験生の皆さん、本当にお疲れ様でした。心地良い春の風に吹かれ、それぞれの新しい生活へ一歩を踏み出してください。