「 ブライダル・ベール 」
関 京 子(山口県下関市)
冬の京都。チャペルの外観は落ち着いた色あいで、小雨の古都にしっくり溶け込んで全く違和感がない。花婿は二十五才。そして花嫁は一つ年上の二十六才。
ブライダル・ベールという名の花がある。最初にこの花と出会ったのは十九の時だった。きれいで可愛らしい物なら何でも大好きだったこの頃、その姿の愛らしさのとりことなった。この花はその名の通り、花嫁のベールの様に枝垂れて成長する。小さな葉と葉の間にちりばめたように白い小さな花が咲く。
二十代の終わりに結婚してからは、慣れない家事や育児に追われ、庭の手入れをする心の余裕など持てなかった。しかし、ここ何年かは子供も大きくなったこともあり、私はまた若い頃を思い出し、ブライダル・ベールを育てはじめた。この花の特徴は見た目のせん細さとは裏腹に、ジャムの空きびんなどに、葉先を少し切ってさしておけば、いつの間にか小さな根が出て来るようなたくましさである。初夏の頃ならこれを土にさしておけば、すぐに根づいてくれる。大きくなった株を分けて鉢に植えかえようとする時など、その根が植木鉢の中いっぱいに豊かに育っている様には驚かされる。最初は初々しい花嫁も、
時が経てばたくましい妻、そして母になるということであろうか。そう言えばこの花はジューン・ブライドの初夏と、秋の結婚シーズンの頃に多くの花をつける。本当に花嫁の花という感じである。私はふと、私の結婚の時に、恩師がかけてくれたあの言葉を思い出した。
「知恵が全てを救うからね。」…今迄この言葉に何度助けられたことであろう。結婚生活で何か困難なことに出会った時、冷静になって一歩立ち止まってみれば、何か良い解決策が生まれてくるということである。私も古都の冬の日に愛を実らせた若い二人の為に、この「知恵が全てを救う」という言葉を贈りたいと思った。