第 3027 号2007.01.28
「 水仙の海 」
上 野 敏 子(山梨県甲府市)
今年もまた水仙の咲く季節がやってきた。我が家の、そんなに広くはない庭にも咲き始めて、このところ続いている強風にも、凛として耐えている。
どこにでもある、ごく普通の黄色いラッパ水仙だが、数えてみたら136個の花とつぼみがある。全部咲きそろったら、どんなにすてきだろうか。
私の水仙好きは自他共に認めるところであるが、その原点は子供の頃に見た水仙だと思っている。
家の近くにある八幡神社の境内は子供たちの格好の遊び場所であった。神社のとなりにある農家の広い庭には一杯に水仙が咲き乱れ、春の風に揺れていた。それは思わず息を飲むほどの美しさで私を魅了した。それはまさしく「水仙の海」なのだった。
あれから五十二年近くが過ぎ、農家は新しいモダンな家になった。
広い庭はサクで囲われ、その一部は駐車場になってしまった。そのすみにひっそりと寄り添うように咲いている水仙が、当時を思い起こさせるだけになってしまった。
あのころ一緒に遊んだ友達はどうしているだろうか。
なつかしい時代を思い出すたびに、あの水仙の海が心に浮かぶ。年を重ねるごとに、それはますます鮮やかに蘇ってくる。
今、この庭をたくさんの水仙で埋め尽くし、私の「水仙の海」を作り出すのが夢である。
でも、夢が叶った時、泳げない私は「水仙の海」でやはり溺れてしまうのだろうか?