第 3024 号2007.01.07
「 孫を持つ愉しみ 」
北 澤 康 子(東京都小平市)
「おばあちゃん、朝までここに居てね」
幼稚園の冬休みを親元を離れ一人で遊びに来ている五歳の孫が言う。
布団の中で小さな体を引き寄せると育ち盛りの子供が放つ甘酸っぱい匂いが私を過ぎ去った遠い昔に引き戻す。
当時、私たち家族は主人の転勤で茨城県の鹿島に住んでいた。今でこそサッカーのアントラーズのホームタウンとして有名だが、当時は何もない静かな田舎町だった。横に部屋が三つ並んだ間取りの両端を夫婦の寝室・子供部屋として使っていた。
そう、もう30年近く前になる・・・。
寝入りばなの私の枕元に、まだ幼い長男が立っている。「お母さんと一緒がいい」と言いながら。余り仲が良くなかった両親の元で育った私は自分の作る家庭は夫婦仲良く、夫婦が中心にと若さもありそう思っていた。団塊の世代が親になる、ちょうどそんな時期でもあり、夫婦は夫婦・子供は子供、欧米式の育児が取り上げられた時期でもあったように思う。
その夜は確か実家の母が遊びに来ていて、いつもは一人で寝付くのに久しぶりの祖母になじみがなかったのだろう。寝付けずに私の許に来て「こっちがいい」と何度も言ったのだが、「駄目、自分のお布団で」と私は突っぱねた。そうまだ3歳にもなっていなかった、この孫より小さかったのだと孫を抱き寄せ今更に思う。あの時こうしておいでと抱きしめてあげればよかった。親が子を抱きしめる時期は僅かなのだ。
「いいよ、朝までここに居るからね」と返すと、ほっとしたようにうれしそうに笑って孫は目を閉じる。
孫を持つ愉しさ・面白さは積み残してしまった子育てのかけらを拾い集められる事なのかもしれない。