第 3020 号2006.12.10
「 土曜26日会 」
芦 田 照 子(荒川区)
晩秋の午後、新宿のレストランでなつかしい会が開かれた。会の名は「土曜26日会」。
ともに喜寿の男性3人、女性4人。
なんと50余年前、卒業公演で「シラノ・ド・ベルジュラック」を演じた仲間である。
当時、私たちは男子部、女子部に分かれて教職への道を歩んでいたが、卒業にあたり、初めて合同公演をすることになったのだ。
戦後数年、まだまだ物の乏しい時代。セットも衣装も工夫して手作りで、それらしく形を整えた。シラノ役のMさんが、長い脚本をじょうずにまとめて、なかなかの舞台になった。私は、音楽効果だったが、練習はとても楽しかった。
第5幕、修道院の庭で、傷ついたシラノが最愛の女性ロクサアヌの前で死を予期しながら言う台詞、「然り而して土曜26日シラノ・ド・ベルジュラックここに死す」
そう、土曜26日はシラノが息絶えた日なのだ。然り而して私たちは公演の記念に「土曜26日会」という会を作り、年に一、二度しかない土曜26日に何回か集まったが、それぞれに忙しく、長い間途絶えてしまっていた。本当に久しぶりの集いだった。
みんな年を重ねたが、話している間にすっかり昔の仲間に戻ってしまった。結ばれたいくつかのカップル、消えたロマンス、亡き友への想い、公演の裏話など話は尽きずあっという間に時が過ぎてしまった。
来秋は文学座の公演もあるとか、みんな元気でいっしょに観ようと約束して別れた。
私は、半世紀、シラノの舞台も映画もほとんど観ている。
たった一度の出会いが、その後の人生の彩りになることもあるのだと思う。
帰宅して次女に会の由来を話したら、「ロマンティックな会ね。」と云われた。