第 3002 号2006.08.06
「 高原で聴くドイツ宮廷音楽 」
仲 途 帆 波(ペンネーム)
指揮棒が一閃されると同時に、オーボエの澄んだ音色が場内に響きわたった。曲はシューマンの「3つのロマンス作品94」である。
クラシック音楽には素人同然の私は、オーボエがこれほどまでに哀愁を帯びていて、心に沁みこんでくる楽器とは知らなかった。
「今年は音楽祭に合わせて、予約したから」と、7月に義姉から電話があった。音楽祭は一度聴きたいと思っていたので、例年以上に嬉しい草津行きとなった。
場外で吹奏される3本のアルペンホルンに歓迎されて、音楽ホールに入る。
第26回となった草津国際音楽祭の今年のテーマは、「ドイツの都市と音楽」、私達が聴いた日は“ドレスデンとハル”、シューマン始めウェーバー、ヴィヴァルディー、ヘンデル、ヴラニツキーの作品、少人数の室内楽とオーケストラという豪華なプログラムである。
雰囲気は正に、18世紀から19世紀のドイツやオーストリア宮廷の室内楽、通常のコンサートとは別の感動があった。
またヴァイオリンを始め主な奏者はドイツから招聘した名手ばかり、ユーモラスなしぐさで笑わせるプレーヤーもいて聴衆を飽きさせない。
ヘンデルの「オルガン協奏曲」では、巨大なパイプ・オルガンを駆使して即興で小鳥の声を挿入するブリツィ氏の演奏が、場内を沸かせていた。
多くの後援者に支えられて続いている音楽祭は、一服の清涼剤だった。
下界の暑さを逃れて高原のコテージで過ごした3日間は、正に至福の極上休暇となった。帰る日にそう言うと妻は、私を斜めに見て言い放った。
「仕事を辞めた人に、休暇はおかしいんじゃない?」