「 英国湖水地方 」
ヘリオット愛読者(ペンネーム)
鬱々とした曇天をはねのけ、待ちこがれた青空が広がる。
イギリスに夏が来た。
英国の夏空は、遠くぬけるような透明な水色をしていて空気が爽やかだ。
ただし、晴れていてもちょくちょく小雨が降るのでレインコートは必携だ。
北西部の湖水地方は
ピーターラビットの作者ポターが住んだことでも知られる。
年間を通じて降水量が多く、高い丘陵と幾つもの湖がつらなり美しい。
湖水地方では今も昔も羊飼いが羊の群を導き暮らしている、
小屋ではカラフルな農機具が出番を待ち、子供達と牧羊犬が駆け回って遊んでいる。
子々孫々の代までこの牧歌的な人と自然の営みわ残すため、
私財をなげうって活動したポター達の情熱がいまも其処に木霊している。
今夜の宿は静かなヒルトップ村にあるちいさな宿だ。
小窓には色とりどりの花が飾られ、白い壁と庭が愛らしい。
古く重厚な木の扉をあけると、広いロビーの左手には、冬の厳しさを想わせる大きな鉄暖炉がある。
夏でも時折肌寒い湖水地方ならでは、暖炉には今日も橙色の炎が暖かい。
ドアにティータイムの看板がかかると奥のテーブル席ではお茶の時間だ。
観光客がつぎつぎ紅茶やケーキに興じ、にぎやかな笑い声が聞えてくる。
ピターラビットの子猫トムの話ではこの宿が背景となり、今もかわらぬ庭の木戸を猫やあひるが出入りしている。
そんな宿の噂を聞き、遠く日本からも予約が入る。
宿の主人が宿泊していた日本人の男の子に「君のお気に入りは何かい?」
と尋ねた。その答えを聞いたとたん、主人は大笑いし上機嫌で坊やの頭をなでた。
「そうさ、イギリスの子供達はみんなそいつにあこがれているのさ。僕もその一人だよ」
国籍も年の差も超えて二人の気持ちがつながった。「よい旅を!」
さて、男の子が答えたものは何でしょう。
それは「トラクター」です。
イギリスの田舎道で、大型トラックよりも大きな赤や青の巨大トラクターとすれ違う時。
きっとその気持ち、同感されることでしょう。