第 2999 号2006.07.16
「 思い出の街で 」
さくらゆきこ(ペンネーム)
息子が中学生になり、少しずつ親離れし、夫婦だけで過ごす時が増えた。爽やかな日曜日、二人で久し振りに銀座へ出掛けた。
学生時代からのつきあいの主人とは、よく銀座でもデートをした。
あの頃は、特に目的もなく何時間も街を歩き、ウインドウショッピングをするだけでも楽しかった。画廊巡りをしたり、日比谷の方まで足を伸ばすこともあった。本当に何をしていても話題つきる事なく、又、たわいない事で嬉しがったり、笑いあったりしていたものだ。
なのに今、話題の店で、美味しい食事をしていても私達には沈黙が続いていた。店を出て、私が腕を組もうとすると主人は、それを軽く払い除けた。これには、かなりショックを受けたが、もうすぐ結婚二十周年、夫婦ってこんなものなんだろうか?無理やり自分を納得させてみる。
大好きな街で、寂しい気持ちを抱えながら裏通りを歩いて行くと、昔何度か一緒に来た映画館が、今も当時のままの姿で、私達の目の前にあった。変わりゆく街の中に私達の思い出がそのまま存在している。
急になつかしくなり、ふらりと映画を観ることになった。
そして映画を見終わった時、何だか何もかもがタイムスリップした様な気持ちになって、私達は映画館を後にした。
大通りに戻ると、日曜恒例の歩行者天国は人々の幸せな笑顔で溢れていた。相変わらず会話はない私達だったが、そっと手をつないだ優しいぬくもりに私は静かな幸福を感じ、あの頃のようにゆっくりと夕暮れまで散歩を続けた。