第 2990 号2006.05.14
「 想い出袋 」
ひろこ(ペンネーム)
休日を利用して部屋の押し入れの掃除をしていた。書類やらガラクタやらが詰め込まれているだろう段ボールや紙袋の山。この山は、自分が生きてきた記録集でもあるのに、その時ばかりはうっとうしく感じられた。ホコリにまみれながら「捨てるもの」「とっておくもの」と仕分け作業を続けていると、小さな黄色い布袋がふと私の目に留まった。
「なんだろう?」
中身を取り出すと、数十通ほどの手紙が出てきた。全通とも宛先はなく、宛名欄には私の名前が黒いペンで書いてある。封筒をひっくり返すと、差出人欄には「ふみか」と書いてあった。「ふみか?」三秒ほど空を見つめていたら、彼女の顔が頭の奥から浮かんできた。高校三年生の時のクラスメートだ!かれこれ十数年前の同級生。この瞬間、当時の彼女との想い出が一気に去来してきた。気がつくと手がかすかに震えていた。
当時、彼女と私は同じクラスに所属していた。しかし彼女との交流は一風変わったものだった。私たちは同じ教室で学んでいたにもかかわらず、教室内では会話をあまり交わさなかった。周りから見たら、彼女と私はそれほど親しいわけではない。ごく普通のクラスメート同士にすぎなかっただろう。でも本当は違った。私たちは文通をしていたのだ。彼女が教室の端っこで手紙を私にそっと渡すと、私は家でそれを読んで返事を書き、翌朝彼女じきじきに投函する。それの繰り返し。
17、18歳というもっとも多感な時期。とても感覚的、感傷的だけど、私を励ます内容だった。不器用な悩みを本音で綴る、温かい手紙。全部読み終え余韻から醒めると、夕暮れ時だった。私は迷わずその黄色い布袋を「とっておくもの」の方にそっと置いた。