第 2988 号2006.04.30
「 木の名前 」
鶴 田 楡 (東京都多摩市)
みずみずしく繊細な、木々の芽吹き。
五月の初め、丘にそよぐ梢はみな、柔らかな点描だ。
風に渡って一斉に葉裏が翻ると、丘一面、ペパーミント・ソーダの泡がはじける。
一口に「新緑」といってもさまざまだ。薄緑、黄緑、オリーブ、ライム、鶯色・・・・。
色調の妙に感じ入っているうちに、それぞれの木の名前が無性に知りたくなった。
散歩の途中、図書館に寄って植物図鑑を開いてみる。
アオギリ、アカガシ、アカシデ、アキニレ、列記されたカタカナの名称は果てしないが、うーん、どれもどこかそぐわないような。
これらすべて、人間が便宜上つけた名にすぎないからだろうか。
人間のなりわいとは無関係に、季節に従って芽吹き、咲き、実り、脈々と営まれてきた木々の生態。
たぶん樹木は、人間が名を与えるより遥か昔の、太古から伝わる名称を持っていて、風の音にまぎれ、息吹のように呼び合っているに違いない。
われわれの知らないところで。