第 2987 号2006.04.23
「 すくすく公園 」
河内 和子(大田区)
「ばぁば、補助なしの自転車、乗れるようになったの」
それはすごい、どんなか見せて、ということになって孫娘とサイクリングコースつきの公園に出かけた。日曜の朝十時、自転車置き場には列もなく、自分で運び出した貸し自転車にまたがり、孫娘は胸をそらせてスイスイとこぎ始めた。
もう六歳、ここまで育つのに、何度この公園を通ったことだろう。
一歳のとき、父親が急死した。そのとき三歳だった兄のほうは父親の記憶があるが、この子は父親の顔も覚えていない。
土曜日に娘が一日仕事に出かけるので、週末は孫たちを預かり、子育てを休ませることにした。公園めぐりは欠かせない日課となった。
もっぱら二人を疲れさせて、昼寝をしてもらい、一息つきたかったのである。
だが子供の動きを追ううちに、週ごとにあらわれるその成長の痕跡をはっきりと見届けられるようになった。その発見が面白くて子供たちのあとを追いかける疲れを忘れていた。見守るこちら側も成長させてもらっていたのである。
休日の公園、付き添い役は圧倒的に父親が多い。きょうの孫娘の視線はほかの親子連れのほうには全く向かず、頬を上気させて自転車のペタルを踏むことに集中している。
お昼になって、陽だまりに並んですわり、手作りのサンドイッチをほおばった。
「ばぁば、おいしいね。しあわせだね」
「唯ちゃん、しあわせってどういうことだか知ってるの?」
「うん。いい気持ちのことでしょう?」
この子はもう大丈夫、時が癒してくれているのだ、と思った。