「 10年若返る薬? 」
北原 希代子 (埼玉県戸田市)
もう、20年も前になるだろうか、ある生命保険会社のアンケートに「10年若返る薬があるとしたら、あなたは買いたいですか?何の為に欲しいですか?」という質問があった。当時30代だった私は、そのときの年齢が気に入っていたこともあり、さほど欲しいとも思わずにいたが、仲良くしていたお母さん仲間にその話をしたところ、意外な答が返ってきて驚かされた。一人は「私だけ若くなってもしょうがないわ、主人も若くなければ」、一人は「若くなって主人をもう一度振り向かせたわ」、一人は「せっかく若くなるんだから、他の人とやり直したいわ」というものだった。同感だと思われる人もいるかもしれないが、そのときの私には、主人とか他の人とか第三者は頭に浮かんでこなかったのだ。純粋に自分が20代に戻ったら、自分はどう生きたいか?どう生き直すか?果たしてこれまでと違った生き方ができるだろうか。と、自問自答した。
あれから20年、今、あの質問を受けたら間違いなく「欲しい」と即答するだろう。それも一錠では足りそうにない。
精一杯生きてきたつもりなのに、やり直したい事は山ほどだ。体力も落ち、容姿も衰えた。かろうじて変わらないのは気力だけだ。
最近、久しぶりに何人かに同じ質問をしたところ、面白い答が沢山返ってきて、改めて、答の中に、その人の人生が見えてくるのに気がついた。
この春、定年を迎える主人に「10年若返る薬があったら、あなた欲しい?」と聞いてみた。「俺はいらないな!好きなように生きてきたもの」と言う答、さすがB型で自分本位に生きてきた主人らしいと、思わず「素晴らしいわね、いい人生で」と称賛したら、「もしも、神様からもう一度20代にしてやる」と言われたら「俺は勘弁してもらいたいな、もう一度やり直すのはしんど過ぎる」と一言。わがままな主人が一瞬とても愛おしく思えた。