第 2977 号2006.02.12
「 バレンタインデー 」
堂島 正代(中野区)
二月の声を聞くと、街はバレンタインデーで活気がみなぎる。スーパーやコンビニには手頃なチョコレートが並び、デパートの売り場には贅をこらした世界各国のチョコレートが溢れ、まるで宝石のようである。
つね日頃から恋こがれる男性に勇気を奮って「貴方が好きなのです」と、告白できるバレンタインデーとチョコレートが、いつの頃から結びつくようになったのか定かではない。
現代は老いも若きも本命とか義理とか云って、チョコレート売場に群がり、買う女性でにぎにぎしい。
夫は現役時代に、色どり鮮やかにラッピングされたチョコレートを持ち帰り、「俺もまんざら捨てた者ではない……」
と浮つき、ヤニ下がっていた時もあった。
「フン、何よ。義理チョコの一つや二つで目尻をさげちゃって……」
軽い嫉妬で受けとめたり、諍いに発展することも間々あったが、そんな日は遠く久しい。
娘達は嫁ぎ、広くなった家に今は老夫婦だけの毎日である。ゴミ出しと朝食作り、洗濯物の取り込みは夫の仕事となった。
買物と散歩はできるだけ一緒に行く。晩酌を欠かさない夫と、少しだけ嗜む自分のために夕食の惣菜作りには気を入れる。
もう暫く二人三脚を続けるためにも、今年からの二月十四日はバレンタインデーならず、婆恋日(バーレンディ)と位置ずけようと心に決めた。
婆さんが若い男に恋心を募らせる日などとゴカイしないでいただきたい。お相手はわが戦友、夫である。
いささかショボくれてはいるが、これはお互いさま。万感の思いを込めて「ありがとう」のキスを交わしたい。
貴方には私、私には貴方、もう選択肢のない二人のキスは、甘さひかえたほろ苦いチョコレートの味に間違いないようである。