第 2972 号2006.01.08
「 冬が好き 」
武 田 道 子(江東区)
20代の頃、英会話学校に通っていた。
年配のカナダ人男性の先生に「どの季節が好き?」と聞かれ、「冬が好きです。」と答えると、あきれ顔で「アーユークレイジー?ホワイ!ホワイ!ホワイ!」と聞かれた。悲しいかな説明するだけの英語力がない私はきちんと答えられず、悔しい思いをしたのだった。
それから20年の歳月が過ぎて、あのとき先生があれほどびっくりした理由が少しはわかった。先生のお国では短い夏を終えるといきなり気温ががくんと下がり冬まっしぐら、人々は夏という一番良い時期にこそ長期休暇をとり、それ以外の時間はただひたすら夏の訪れを待ちつづけるのだと知った。
私は冬が好きだ。
秋に美しい彩りを見せた葉が次々と散っていったそのあとに、ぽつんと残された枯れ木は意を決したようにひとりで冬支度をはじめる。そうしてある朝空気の匂いが変わったことで私たちは冬の訪れを知る。
決して寒いのが好きなわけじゃないけれど、冬のコントラストが好きだ。
寒い家路を急ぎ、帰宅後に迎えてくれるストーブの暖かみ。朝しっかりと身支度をして家をでるときに頬を包む、冷たい空気のすみきった感覚。家族で楽しむ晩餐のあと、窓の外の垣根に降り積もる雪をながめる瞬間。
そういう冬の思い出はすべて、心の中で暖かい記憶になって残っている。
英会話学校はあのあとやめて、先生とはそれっきり。もうお会いすることはないだろうけど、冬になると私は彼を思い出す。そうして、心の中で言ってみる。
先生、ひとしきり寒くなりましたね。今晩あたりうちのアツアツお鍋のファミリーディナーに参加しませんか?冬がどんなにステキな季節だか、ぜひお見せしたいから。