第 2962 号2005.10.30
「 自然に癒され人の情に触れて 」
熊 本 照 子(栃木県真岡市)
豊かな自然に囲まれ私は今、娘の家で病後療養中である。
長い間一人の都会暮しに慣れて来た故か日毎に接する自然に驚きと感動の連続である。
田んぼの稲が一斉にレースの様な白い小花をつけたさまに心動かされたり、桑の実が赤紫に熟れたのを見たりすると、遠い幼い日を思い出しカートを押しての散歩ではあるが、萎んだ脳に新鮮な活力を与えてくれる。
或る日、目の前で蜻蛉が蝶を捕らえ、ガシガシと喰らう様にいささか驚き、何の世界でも弱肉強食の厳然たる掟を目のあたりに見た。
青田から一斉に飛立つ生れたばかりの小さな蝗に愛しさを覚え、無事に大きくなれよと願わずにはいられない。
或る日、散歩の途中木陰の草むらに腰をおろし、余りの気持ち良さにしばらく呆然と空を眺め、何時の間にか横になり目を閉じていた。
と、前の道路に突然車が止まり、年配の農家の方らしい男性が「あんべえ悪いかねえ。大丈夫か」と叫ぶ様に大声出し乍ら降りて来た。
驚いた私が散歩の途中で休んでいた旨伝えると、「矢っ張りそうだったか。さっき通った時行き倒れでもなさそうだがと、通り過ぎたがどうにも気になって戻って来た」と。
軽はずみの私の行動に申し訳なかった事を深く詫びる私に「なーに、どうってことないよ。俺も気にしているより戻って元気を見て安心したよ。転ばん様に気いつけてなあー」と最敬礼する私に明るい声を残して遠去かって行った。
豊かな自然の中に暮らしていると人は、心も温く育つのかも知れない。
地域の人の人情に触れ、親孝行な娘夫婦に支えられ、きれいな空気を腹一杯吸って、元の体に戻れる事を確信する私である。