第 2956 号2005.09.18
「 秋のはじまり 」
野田 明子(京都市)
大通りを一筋入ると、まだ少し自然が残っていて両脇にまんじゅしゃげ(彼岸花)が咲いている道がある。道幅がちょっと広くなっている所に、四、五人の小さな子供達が、三輪車や、手押車を持ち寄って楽しげに遊んでいる様子に時どき出くわす。
今日たまたま通りがかりに三歳位の女の子が三輪車の輪をころころ廻しながら、「今日は秋のはじまりの日やでー。」「秋がはじまるのやでー。」と子供達の誰にともなく大きな声で喋っているのを聞いた。子供達の中に一人いた若いお母さんが、「そうやね。秋やねえ。秋のはじまりやねえ。よう知ってんのやね。誰に聞いたん?」と言うと、女の子は一寸得意そうに「前から知ってんねん」と歌うように答えていた。
女の子の「秋のはじまりやねん」の音声はとても新鮮且つ強烈に私の心に残った。
確かに今日は秋分の日。私がこの日に思い浮かべることは、墓参、おはぎ、釣瓶落とし、夜長とごくごく平凡そのもの。
女の子のおそらく両親から受けたであろう日本の情緒ある季節の移りかわりをこんなに自由に優しく表現してくれたことを本当に嬉しく思った。そして彼女が大人になってもこの感性が持ち続けられる自然環境であって欲しいと願わずにはいられなかった。夜が更け草むらでこおろぎがないている。女の子はもう夢を見ているのだろう。目覚めると秋です。