第 2954 号2005.09.04
「 私が小さかった頃の話 」
KAZU(ペンネーム)
私が小さかった頃、父はよく私を人混みの中へ連れて行きました。
三社祭りや花やしき、ほおずき市に朝顔市、おとりさまに羽子板市と。
小さな私は大きな大人の中に埋もれ、はぐれないようにとしっかり父の手を握っていました。
私が小さかった頃、母は私を連れて銭湯に行きました。下足箱に二人分のサンダルを入れ、木の札を抜くと鍵がかかります。脱いだ衣類は細い竹で編まれた篭に入れ、上からバスタオルをフワッとかけておきます。書割はもちろん富士山です。今では富士山が目の前に見える所に住んで、毎日本物を眺めています。
私が小さかった頃、家の近所には人がたくさんいました。外でおしゃべりをしたり、打ち水をしたり、涼んだり、子供たちの遊ぶのを見ていたり。みんなとても優しい顔をしていました。私たち子供にもたくさん話しかけてくれました。
私が小さかった頃、周りの音はコトコト、ガタガタ、ギーギー、バッタン。今、私の周りの音はビューッ、カシャカシャ、ピーッ、バシン。
何もかも早くなってしまいました。時間の長さは変わらないはずなのに、流れだけがすごい勢いで速くなっています。大切な物を落としても、それを拾っている余裕がありません。とてももったいないような気がします。せめて仕事を離れた時には、サクサク、カチャリ、こんな音で過ごしたいものです。