第 2951 号2005.08.14
「 夏の思い出 」
幸坂 みどり(川崎市)
毎年夏になると四十年も前に父の実家の山梨で過した日々を思い出すのです。父の家は山間にある大きな農家で、父は七人兄弟の三番目でした。兄妹の仲が良く、それぞれの子供達、私達ですが都会に住んでいる者も田舎に住んでいる者も子供達が大勢夏休みになるとその家に集まり一ヶ月近くも過していました。家を継いでいる長男御夫婦は、どんなに大変な時であったかと思いますが、孫達が集まって来る祖母のうれしそうな顔は、いっそう私達をそこへ魅きつけていました。当時、遊び道具等は無く、朝、暑さと蝉しぐれで目覚めると本日は山へ行くか川へ行くか決めて、ぞろぞろと年長者の後をついて行くのです。
川遊びの時は、家から歩いて二十分位の川で二時間程度遊ぶと「さあ帰ろう」とまたぞろぞろ。途中の畑でとうもろこしをもぎ、家で焼いておやつに食べることが何より楽しい事でした。外に行けない雨の日は、家の中でかくれんぼをするのですが、当時の大きな農家にはあった布団部屋に入り込み、カビくさい、ひんやりとした感触のうす暗い部屋になんとも言えない安堵感にそのまま寝入ってしまったことも。
今でもその匂いや、感触ははっきりと覚えています。夜は時々小学校で催される映画会へ、暗い山道を歩いて行き子供映画に感激して帰って来るのです。
小学校から高校まで続いた同じ夏休みは、いとこ達との絆を強くし、心に染み込んだ、なつかしい大切な思い出です。物より思い出というテレビコマーシャルがありますが、物が溢れる今の子供達はどうとらえるのでしょうか。心豊かな少年時代を過した私達の時代は遠い日になってしまいました。