第 2948 号2005.07.24
「 夏の風景今昔 」
匿 名
夏休みに入ったこの時期になると、町や旅先で子供の姿を目にする機会が増える。日傘を差したお母さんと小学生、プールで友達同士水遊びに興じる子供たち、縁側に並んでスイカの種を噴き出す家族などを見かけると、不思議と自分の子供時代を思い出すことが多い。
私は昭和35年に東京下町に生まれたが、バッタを追いかけた空き地、おたまじゃくしをすくった池、霜柱を踏んで登校した田畑は、高度経済成長とともに急速に住宅地、駐車場、幼稚園に変貌していった。今では近くのスーパーマーケットに行けば、サラダドレッシングや輸入品のジャムだけでも何十種類もあって商品棚から溢れているが、当時は大型スーパー自体が下町では珍しかった。細い路地も区画整理で道幅が広がり舗装されて車は溢れ、オフィスや家庭ではエアコンの普及で東京の夏は本当に暑くなったと感じる。
終戦直後と比較している訳ではなくわずか1世代(30数年)前の日常風景だが、今の子供たちとはずいぶん育った環境が違うものだ。だからこそ、昔懐かしい日傘の復活、水着を入れたビニールバッグを下げた子供たち、スイカの甘味は大人のオジサンたちの郷愁や回顧趣味を誘い、自分の古い記憶を呼び覚ますのだろう。
夏休み時期に入り家族たちが実家に先に帰省して自分の時間ができることも、ふと子供時代を思い出す一因かもしれない。あの頃の自分は決して帰って来ないけれど、日本のお父さんたちもたまには昔を思い出し、井上陽水の「少年時代」を口ずさんでみてはいかがですか。