第 2942 号2005.06.12
「 一片の景色 」
衛藤 彬史(府中市)
ページをめくる音さえも、大きな音に聞こえる、ここは図書館の読書室。
いろんな人がそれぞれのものを机の上に広げて熱心に何かをしている。
その部屋の隅の、唯一陽の当たる席、そこが僕のお気に入り。
ふと窓のそとを見れば、木の上半分が見える。空からやってきた鳥たちは、それらの枝にとまったり、また空へ帰っていったりする。ときたま強く吹く風に枝が細かく揺らされたりもしている。
ここに座って、窓のそととこの景色を見ると、すぐに心は晴れやかになって、もっと見ていたいけど、やらなくちゃいけないことがいっぱいあるから、つかの間の休けいを終わらせて、周りの人たちと同じように、熱心に机に向かう。
またそれに疲れたときがきたら、窓のそとに目をやればいい。ずっとおんなじ景色なのに、見るたび新鮮でこんなに空は青かったかなぁ、こんなに枝は細かったかなぁ、って思える。
晴れた日が好きだけど、曇ってても、雨降りでもそれはそれで好き。
暖かい日が好きだけど、涼しくても、寒くてもそれはそれで好き。
僕はこの景色のいろんな表情を知ってるような気がして、嬉しくなる。
今日は笑ってるな、とか今日はちょっと不機嫌なのかな、とか勝手に想像してみたりして・・・。
でもこの図書館は、もうじき取り壊されてしまう。古くなったから別の場所へ新しくつくるそうだ。
実際には、木も空もなくなったりはしない。でもここからのこの景色はもうなくなってしまう。あと何度見ることができるだろうか。そう思うと残念で、悲しかった。