「 知ってるよ ぼく 」
かせ ようこ(ペンネーム)
「ワンワンワン みいーつけた イヌさぁーん
ニャンニャンニャン みいーつけた ネコさぁーん」
ゆっくりと柔らかな声で、生まれて2日目の赤ちゃんを抱きながら娘が話しかけた。
「ピヨピヨピヨ みいーつけた ひよこさぁーん」
ひどいつわりとその上ほとんど安静状態で我が家のベッドで寝て過ごした妊娠中、「お腹の赤ちゃんに話しかける絵本を買ってきて」と頼まれて私が探した絵本だった。
娘はあまりの辛さに時折涙でくしゃくしゃになりながらも、「ももちゃん」と呼んでいるお腹の赤ちゃんをいつも愛しそうに撫でていた。
べッドの上でお腹を撫でながら「ももちゃん聞いてね。ワンワンワンみいーつけた イヌさぁーん」と娘がお話を続けると、時々お腹がぴくっぴくっと動いて「あっ、ももちゃんが聞いているみたい」
ほんとに長かった九ヶ月と三週間近くの大変さに比べて、ももちゃんは予定日よりも六日早く、そして痛くなってから四時間ぐらいの短い時間であっという間に私たちの前に登場した。
それも三千七百七十五グラムもある大きな男の子。
ももちゃんからたちまち大ちゃんに名前変更して、その大ちゃんを病室で抱きながら「ニャンニャンニャン みいーつけた ネコさぁーん」
と娘が話しかけたのだ。まだお腹から出てきたばかりの大ちゃんがその声に反応するように
「聞いてるよ、その声。知ってるよ、ママが話してくれていたお話だよ」というようにゆっくり頭を動かしてちょっと目を開けた。
それは、まるでお腹の中で聞いていた声を探しているように見えて、娘も私もその神秘さにすごく感動して涙があふれた。
相変わらずビッグな大ちゃんは今や生まれて十一ヶ月。
ママのお膝にちょこんと座って「ワンワンワン みいーつけた」の絵本を開いてうれしそうにママの声をじっと聞いている。