第 2917 号2004.12.19
「 クリスマスケーキ 」
ななこ(ペンネーム)
鼻歌まじりのジングルベルを歌いながら、妹がケーキを作っている。
大好きな恋人のためのクリスマスケーキ。
二人が迎える初めてのクリスマスに向けて、毎週日曜日はケーキ作りの練習なのだ。
はっきり言って、妹の手際はよいとは言い難い。さっきは砂糖を入れ過ぎていたし、今はオーブンから焦げた匂いがしている。今日も失敗だな、と思う。
自慢じゃないけれど、ケーキ作りの腕は私の方が上だ。こうやって毎週練習している妹よりも、半年に一度くらいしかケーキ作りなどしない私の方が上手なのだ。これは家族皆が認める事実。
だけど…。だけど私は妹に負けていると思っている。今年のクリスマスに、妹は恋人のためにケーキを作る。私は家族のためにケーキを作ることになりそうだ。それは決して悪いことではないのだけれど、年頃の女の子としてはやっぱり寂しいし、悔しいのです。
案の定、焦げてしまったケーキのスポンジに、妹が生クリームをたっぷりかける。焦げ目を隠そうとしているらしい。完成!と満足げな笑顔で、歪なケーキを差し出された。
えぇ、えぇ、いいですとも。毎週毎週甘い物を食べさせられて、体重が一気に増えましたよ。でも気にする相手もいませんし、デートの服の心配もいりませんからね!可愛い妹のために、いくらでも犠牲になってあげますよっ!
私はヤケクソな気分の勢いで、大きく切り分けたケーキを口に放り込んだ。苦味と甘味の複雑な味に眉をしかめながら、来年こそは!と心ひそかに決意した。