第 2913 号2004.11.21
「 旅の前に 」
長澤 千由紀(甲府市)
六十五才も間近くなったある日、市役所から「老人医療○○」という通知が来た。近頃「老人○○」という郵便物がやけに増え、いやでも年令を意識させられる。そう言えば昨日も三個めの老眼鏡を注文したばかりだ。
健康なうちに不要な物は徐々に整理していかねばと思う様になった。
生まれ出た時は手ぶらだった筈なのに、今見渡せば、買った物貰った物が家中溢れかえり、使いもしない品物が天袋の奥深くまで何十年も仕舞いこんだままになっている。
若い人の喜びそうな物等殆どない。有ったとしても形見など一つで充分だろう。
自分が居なくなった時、子供達が四苦八苦して片付けるなら、少しでもその苦労を減らしておくのも去り行く者の務めかもしれない。
同世代の友達も考える事は同じだ。
「写真は一冊にまとめて、あとは全部すてたのよ。」
(私にはまだまだその勇気はない)
「趣味で集めた戦後史の資料、どこかに寄附したいと思うんだ。」
(うん、賛成! 賛成!)
そういえば亡母も言っていたっけ。
「年をとれば物なんていらないものだよ。」
物を持ちすぎると、それが心残りで安心して死ねないのではないか。
何も持たず、何も残さず風のように逝きたい。
そんな最後に憧れながら、何故か今回も十枚の宝くじを買ってしまった私である。