第 2912 号2004.11.14
「 犬のひとり歩き 」
中途 帆波(ペンネーム)
ある趣味の会の仲間5人で、この晩秋に奥多摩へ出かけた。
青梅の町並み散策と御岳渓谷のそぞろ歩きが目的だった。
青梅駅を出てすぐ東へ、住吉神社に向かう旧青梅街道の両側には、懐かしい映画の看板があちらこちらに掲げられ、タイムスリップした
ような気分。路傍に等身大の鞍馬天狗の模型があり、顔のところが開いていて記念撮影が撮れる仕組みになっていたので、K氏をモデルに一枚パチリ。お姫様のところではSさんに登場願って、顔を出してもらった。
続いて青梅線で、さらに奥の御嶽駅まで行く。紅葉は終わりかけていたが、平日なのに人出は案外多い。
御嶽から沢井までの一駅を、多摩川沿いにゆっくりと歩いた。川原では巨大な岩を使って、若いグループがロッククライミングの練習をしていた。
夏休みや土曜日曜には、都心から家族連れも押し寄せるのだろう、遊歩道沿いには畑や小さな果樹園に混じって、そば屋や喫茶室が何軒かある。
所々に「草花を抜かないで下さい」や「自然を大切にしましょう」の立看板。
ところが次の看板を見て、私たち全員は難問に取り組む生徒になった。
「犬のひとり歩きは、ご遠慮下さい」
たぶんユーモアだろう、いやボケ始めた人が書いたのかもしれないと、議論は続いた。
しかし“犬の一匹歩き”なんて聞いたことがないし、まともに「犬の首ひもを外さないで下さい」では、迫力に欠けると思ったのかもしれない。
「そのうちに犬も進化して、この程度は読めるようになるのでは……」
大笑いになったところで、丘の上に沢井駅がみえてきた。