第 2904 号2004.09.19
「 無題 」
大久保 トヨ(目黒区)
女学校を卒業して七十年余り経ちました。待ち遠しかったクラス会の日です。
八十才を過ぎ、手も口も足も達者な友の懐かしい顔に心がほぐれます。
学校は緑濃い木立ちに囲まれた小高い丘にあります。広い校庭に続く芝生で、仲良しが輪になっておしゃべりしました。
Aさんの顔を見ると思い出します。英語の時間、「豚は?」との先生の問に「ハイ」とAさんは手を上げ、「トン」と答えました。
爆笑、若い女の先生は噴き出したいのを懸命にこらえ、手で、口を覆いました。
柔かい陽射しが窓から延び、白い雲がぽっかり浮ぶ昼下がり、ついうとうとです。友が後から鉛筆で突いて起こしてくれましたっけ。又バスケットボールの試合が他校とあるので、猛練習の日々を過ごしました。厳しい先生の指導は夜まで続き灯りをともした体育館で汗だくで走り回りました。友と肩を組んで、辿る家路は楽しく、体を充分動かした後の爽快感は格別です。揃いのエンジのユニホームで健闘しました。優勝旗を捧げ持って凱旋する時の誇らしさも忘れられません。
あれも、これも遠い昔の懐かしい青春の絵巻です。
今こうして穏やかな顔で、集う幸せを感謝します。お互いに山あ谷ありの長い道のりだったのでしょうが、すべて乗り越え辿り着いた今です。私は九十の夫と労り合い乍ら元気で、過しています。
又来年お会いしましょう。お元気で。