第 2899 号2004.08.15
「 無題 」
加藤 真史(大田区)
夏休みに友人と奄美大島に行ってきた。
友人の知り合いに大島紬の織り子さんがいるのだ。
「何もない所だよ」と聞いていたけれど、果たして本当に何もない所だった。でも“何もない”ということは自然がそのままある、ということなのだった。海のキレイなこと!!
あまりキレイだと泳ぐ気にならないのが不思議だった。
紬が好きで高知から島に移り住んだというその女の人の家で織り機を見せてもらった。
“鶴の恩返し”の世界そのままの織り機が2台、和室を占領していた。
大島紬の職人さん達の現状はかなり厳しいらしく、紬の仕事だけではほとんど生活ができない為、後継者が育たずどんどんやめてしまうらしい。
「今は他のアルバイトをしているから中断しているの」と、彼女の織り機にも布がかぶせてあった。
彼女の家で、近所の畑で採れたというスイカを出してもらった。開けはなった窓から、海風が入ってきた。古い扇風機が回っていた。セミが鳴いていた。
なんだか夏休みに、いとこの家に遊びにきたような気分になった。
1歩外に出るとめまいがするような暑さだった。信じられない位キレイな海が広がっている。そしてほとんど人影がなかった。
色々大変だけどやっぱり紬が好きで続けてゆこうとしている奄美の織り姫様には、静かな強さがあった。迷いのなさがあった。
多分、大切なのはそういうことなんだろうな。静かで豊かな生命力あふれるこの土地でなら、きっと大丈夫、そう思った。
奄美の土地と人から大切なものを教わった気がする。
忘れないでゆきたいと思う。