第 2897 号2004.08.01
「 乗鞍岳登頂を果たして 」
野本 宏子(長野市)
私の満60歳の誕生日の前日、8月3日、神様のプレゼントみたいな、青い空がどこまでも広がった素晴らしい快晴の日だった。
畳平行きのバスにゆられて、一時間足らず、高さ2,700メートルの終点畳平に着いた。到着の少し前に、森林限界点を過ぎると、辺り一面、ハエマツと大雪渓の高山の世界に一変する。そして、ああ、そこに、青春の日に登った乗鞍岳があった!
白、黄、紫、色とりどりに、可憐に咲き誇った高山植物のお花畑の真っ只中を、汗をふきふき、ほかの大勢の登山客と一緒に登った。
この人たちもまた、私たち家族のように、苦しい人生を乗り越えて、今、頂上をめざしているのだろうか。
ふと、ふりかえると、北アルプスの峰峰が、青くけむってそびえている。
山と山の間にうす青く、白く、雲海が絵の様に広がっている。
頂上に近づくにつれ、大きな岩と石のゴロゴロする灰色の、荒涼とした世界になり、その中にあって、点在する小さな湖が、コバルトブルーの水と輝く残雪が見事なコントラストを作り出し、どきっとするような美しさをみせていた。
先を急ぐ長男を視界に入れながら、二男と私は、紫のイワギキョウの花の前でひざまずき、精一杯の喜びをこめて、カメラに微笑んだ。
いま、乗鞍岳最高峰の剣ヶ峰3026米の道標の前で家族3人写っている写真が2枚、アルバムに貼られた。
“もう一枚!!”と言って、シャターを押してくれた男性はどんな顔をしていたかしら。
これからの人生をがんばるエネルギーをもらった乗鞍岳登頂でした。