第 2896 号2004.07.25
「 50年ぶりの蛍 」
永井 のり子(ペンネーム)
近くに、蛍の見られる場所があると知人に教えてもらった。ワクワクしながら夜になるのを待って、夫とふたりで出かけて行った。
谷戸の暗い道を歩いていくと、ほかにも蛍見物人がいるらしく、話し声が聞こえてきた。
「あ、蛍だ」と、夫が先に見つけて叫んだ。本当だ!ピカーッと光ってすうっと消えた。田んぼの山側の水だまりのところでは、たくさんの蛍が幻想的な光を点滅させていた。
私は遠い昔の、夏の夜の光景がよみがえってきた。私の古里は、九州の佐賀で、実家は杵島山のふもとにあった。家の前に小さな谷川があって、きれいな水がちょろちょろと流れていた。夏の夜は、谷川のほとりで蛍が飛び交った。あっちでピカーッ、こっちでもピカーッ。
注意深く見ていると、移動せずに同じ所にいて、光を点滅させているのがいる。捕まえようとすると、光を放ちながらぴゅーんと飛び立ってしまう。ササをもって蛍を追いかける。
「ほー、ほー、ほーたるこい~」
歌いながら、蛍を追い回しササで地面に落とす。捕まえると、畑で取った長ネギの先の青い部分に入れる。その中で蛍はピカーッ、ピカーッと光を点滅させている。ネギの青とあいまって、青白く透き通ったなんともいえないきれいな光を放っていた。蛍を外の庭に置いたままにして寝る。朝になると、たいていどこかへ逃げ出してしまっていた。
夏が来ると、子供のころのあの光景を、ついこの間のことのように思い出す。50年ぶりにテレビではなく、自分の目で蛍を見ることができて、感激した夜だった。