第 2891 号2004.06.20
「 ジーパン 」
武内 知代子(大田区)
六月に入った頃
「親父の胴回りどれくらいかなあー」
と息子から電話があった。
父の日に何を送ろうか迷っているが、ジーパンはどうだろうかと言うことだった。わたしはさあー、穿くだろうか疑問だったが、五日ほどして宅配便が届いた。やっぱりジーパンだった。それ程カチンカチンの生地でもなく、ほどよく織り込まれた上質の物のように思えた。
胴をしめ付けるのが苦手と思ったのか、インサイドベルトも付いていた。
わたしは品物をほめ乍ら、夫に穿くことを促した。悪い気分でもないらしく早速穿いてみた。裾が長いがこれは折ればよいと言うとふーんと納得した。ダンボールの中に封筒に入ったコメントがあった。
父の日に・・・
いろいろな時代をいつも同じテンポを守りながら、生き抜いてきた人生の先輩、ご苦労様でした。
時代は移り変わり、街の景色が変わっても自分のスタイルを変えることが出来なかった大正生まれの頑固な臆病者に「初めの一歩」を贈ります。
これからは一歩一歩、自分を変えていくことも人生の楽しみ方です。
でも決して無理はせずに・・・
親父バンザイ 息子より
こんな文章が書き添えてあった。息子も四十代後半である。昨年家族の離反で生活状況の変化を痛感させられている。文面の後半は自らの誓いごとを覗かせたようにも思えた。
さて、父親はこの贈り物にどう答えられるのだろうか。一ヶ月を過ぎたがまだ穿こうとはしない。