第 2884 号2004.05.02
「 自問自答 」
真 紅(ペンネーム)
あのとき、違う選択をしていたら、私は今、どうしているのだろう?
10年前、私はある大企業の東京本社から鳥取の子会社に出向し、社員のSと知り合った。2年の交際の後本社に帰ってからも遠距離恋愛を続けていたが、Sは長男のため、結婚をするには私が鳥取に行くしかなかった。
そこで私は一大選択を迫られることになった。
1:結婚せず、本社に残る。30代前半で地方の子会社の課長、40代で本社の課長か地方の子会社の部長という途が約束されている。収入もよいが、殺人的に忙しい。
2:Sと結婚し、鳥取の子会社の社員へ身分を切り替える。出世はあまり見込めず、収入も仕事の忙しさも半減。
私は、胃に穴が開くくらい悩んだ。やっと入った大企業。将来も約束され、仕事に誇りを持っている。でも、毎日仕事で午前様では家庭も持てないのでは?Sは、優しく包容力があり、いい夫になるだろう。もうすぐ30歳だし、こんな人とはもう巡り会えないかも。鳥取みたいな田舎で暮らせるかしら?。etc.…。悩み抜いた末、Sは私の夫となり、私は鳥取の子会社の職員になった。
あれから4年。その間、何度となく私はもうひとつの途を選んだ自分の姿を思い描いて、冒頭の自問を繰り返した。
収入は減ったけど、出世できないけど、娯楽は少ないけど、買い物は不便だけど・・規則正しい生活を送るようになって肩こりや便秘等も改善され、余暇は趣味を楽しむ生活。いつも隣には夫がいる、ひとりではないという安心感。
キャリアも家庭も便利さもすべて欲しかった私にとって今の生活は百点満点ではないけれど、もうひとつの途を選んだときよりも、きっと私は幸せなのだ。今日も夫と二人紅茶を飲みながら、そんな自答をする。悔しいから、夫には教えてあげないことにしている。