第 2876 号2004.03.07
「 天の恵み 四年に一度の日 」
城 昭子(船橋市)
カレンダー二月は、二十九日の数字が赤く日曜日です。しかも大安、私の胸は熱く、半世紀も前の世界にもどりました。
昭和二十三年、私は出版社に勤めていました。敗戦後で紙はなく、パソコンもコピー機もなし、内容はアメリカの検閲を受けなければならず、猛烈な忙しさでした。土曜も日曜もなく、作家や画家へ原稿依頼など、新米の私まで飛び回っていました。
その忙しい中で、先輩青年と恋が芽ばえました。彼は正式のプロポーズと私の母の許しを得たいと、編集長に相談しました。喜んで引き受けた編集長は、忙しい中で時間のやりくりに悩みました。その決断は、今年は四年に一度の天から恵まれた二月二十九日がある。しかも日曜日だ。この日は仕事はいっさい休みにして、二人の前途を祝福しよう。
母に話すと、そんなに貴重な日なら、結納までしたら、ということになりました。
当日玄関に訪れた編集長ご夫妻の後に、着物に袴の彼が、晴れやかな 笑顔で頭を下げました。不意打ちの和服に言葉も出ず、白いセーター黒のスカートの私は立ちすくみました。
会社で見る彼とは別人のように袴姿がよく似合って、見とれてしまいました。
母と姉夫婦と共に儀式はすみ、ささやかな酒肴の後、帰りぎわに彼は言いました。
「僕の誠意をどう表現したらいいか考えて考えて、おやじの形見の袴をはきました。」
あの昭和二十三年の閏年から何年たったのか、計算は別にして、今年は天の恵みのよき日を、写真の彼に報告し、チョコレートを供えました。