第 2872 号2004.02.08
「 アフタヌーン・ティー 」
近藤 直子(神奈川県厚木市)
ロンドンに住み始めてはや一年。“イギリス”と言えば“紅茶”と答える単細胞の私は、おいしい紅茶の茶葉を求めて走り回っていました。
そんなある日。イギリス人のご家庭を訪ねる好機に恵まれ、夫と二人でいそいそと出かけて行きました。ギルフォードという街に住むウィリアムスさんご夫妻の家は、“ここ森の中?”と思うほどの木立に囲まれ、迷いに迷って午後3時が4時に到着した私たちを暖かく迎えて下さいました。
リビングに通され、勧められた紅茶を口にした時、そのおいしさに“おいしい”だけでは片付けられない秘訣のようなものを感じたのでした。
藍色の地に白い花模様のティーカップ。ピンクのバラがたくさんプリントされた紙ナフキンの上には、ナッツたっぷり、甘さ抑え目の手作りケーキ。パンを焼いているらしく、香ばしい香りが漂ってきます。
そして、パチパチと音を立てて暖を与えるマントルピースの傍らでは、2匹の猟犬と1匹の猫が気持ちよさそうに眠っています。日本が大好き、とおっしゃるご夫妻はかなりの“通”で、“日本”“JAPAN”という共通の話題で大いに盛り上がったのでした。
家路につく車の中で、私はふとあの紅茶の味を思い出しました。
「どこの紅茶だろう?」
いいえ。あれは「茶葉」の銘柄の問題ではなく、楽しい会話と優しい雰囲気、そして何よりも心から歓迎して下さったご夫妻の心遣いこそが、おいしさの秘訣だったのだと思い当たったのでした。
上流階級の習慣から生まれた、有名な“アフタヌーンティー”は豪華で憧れのお茶の時間ですが、歓迎の気持ちをしっかり込めて丁寧にお茶を淹れる。それがもうひとつの英国流“アフタヌーン・ティー”なのではないかと私は思うのです。