「 無題 」
小島 明美(横浜市)
これまで記憶に残るコーヒーはどこで誰と飲んだものでしょうか?
私は以前母とのウィーン旅行で飲んだものです。その旅行は60歳を過ぎてから初めて海外旅行をした母と2度目の海外でした。絵画等の好きな私はぜひ傑作の揃う、特にブリューゲルやフェルメールが展示されている美術館や東西、南北交通の交差した歴史的建造物を訪れたく母を同行させたのですがリウマチの母を真冬のウィーンに連れていくなどもっての外と友人から非難轟々でした。その時期しかお休みが取れずフライトとホテルだけを予約した旅行なので気が楽でしたし、寒ければ寒いなりの旅程にすればと割と心配なしに、しかし南極観測隊の様な重装備で出発しました。友人の助言通り吹雪の様な天候で寒か
ったのですが、シユテファン寺院のすぐ近くの便利なロケーションのホテルで、周りの散策にはひじょうに便利でした。それでも雪が積もり、気温は低いのでワンブロック歩いてコーヒーショップに入り暖を取り、またウインドショッピングをするという繰り返しでしたが、その時飲んだコーヒーはメランジェと言い、ミルクコーヒーなのですが、とても美味しく、しかもさすがハプスブルグ家の国だけあってケーキがとても美味しいのです。チョコレートのザッハトルテは有名なウィーン菓子です。近くの寺院に日曜日のミサに出たり、私が遠くの美術
館に行く時は母はホテルでゆっくりしていましたし、夕食は雰囲気のある街並みの雪道を母と二人で歩きながら昔は修道院だったレストランを目指したり、短い時間を有意義に過ごせました。海外旅行は興味ないと留守番役に徹していてくれた父のお陰で母娘旅行ができましたが、その父も昨年の晩秋に亡くなり、母のリウマチも進行し、歩行がおぼつかない現在は、思い出は宝となりました。誰もが通る道ではありますが齢を重ねる親の変化を受け入れることは辛く、悲しいものです。