第 2865 号2003.12.21
「 受験生と冬の雨 」
毛利 さやか(川崎市)
冷たい雨が、降る冬の日。
目前に控えた、大学受験のため塾へ急ぐ。
雨は、かなり激しくなって来た。
ジーンズが冷たく足に張り付く。
― クリスマス気分の街に赤と緑とが溢れる。
昨日母が、「今年は、どんなケーキにする?」と
聞いてきたが、受験生にクリスマスは、
無いぞ!と言い聞かせた。ワクワク気分は今年は<おあけ>だ。
華やぐ街を、濡れたスニーカーで急ぐ。
おや?前に、大きな長靴を履いた小学生の男の子が黙々と歩いている。
彼も受験生のようだ。― 私とおんなじだ・・・!
お守りをいくつもぶら下げたリュックは、
片方に傾いている。
みんなの期待をいっぱいに背負った小さく
ゆれる背中を見つめながら、私も歩いた。
― 頑張ろうね!
浮かれた街で黙々と急ぐ私たち。
見ず知らずの背中に、親近感を覚えて
ちょっと暖かくなる。急いでいる私は、彼を追い越した。
ふと見ると前方の信号が、赤になりそう!
― 間にあわないな・・・いいや、次で。
足取りが重くなる。降りしきる雨。
すると、後ろから誰かが走ってきた。鞄をがたがたいわせて。
さっきの子だ。ちかちか点滅した
信号が彼が渡りきると、赤になった。
自分が、何にたいしてか解らないけど負けた気がした。
諦めたら、おしまいだ!
そして、私は、駅までずっと走った。