「 お伽の国=性善説 」
原田 直英(品川区)
世界的に有名な童話作家アンデルセンのあの美しく、哀しい物語に象徴されるデンマークは人口わずか500万人、おとぎの国のようにのどかな国だ。空港でブラックリストの頁をめくって待たされたりはしない。
日本の女性が入国ゲートでパスポートを見せたら「どうぞ」とそのまま行って良いと手でゴーサインされた。
「アノー、私、記念にスタンプを押して貰いたいんです」とパスポートのページを開いたら、「このページでいいですか」とニッコリ笑って押してくれた。町の道路の路肩は自転車道があり金髪を風になびかせ格好よい長い脚を惜しげも無くさらして北欧女性がペダルをこいで走っている。赤い煉瓦色の家々、急勾配の屋根、サンタが出入りするような煙突、窓辺のローソクの灯火、針葉樹の緑がまるで絵のように美しい。女王の居城で衛兵が交代する正午には衛兵達が赤い上着に、熊毛の黒い大きな帽子をかぶり、カラフルな軍服で銃剣を掲げ楽隊が太鼓をたたき、笛を吹いてまるで玩具の兵隊さんのように町を行進する。
楽隊の陽気なリズムを聞いていると、胸が弾みおとぎの国に遊離するような錯覚に陥る。
女王は一人で町に出掛け市民と会話をする。
「ボディガードなしで治安上危険ではないか」と外国人が市民に問うたら「大丈夫ですよ、500万人のボディガードが付いているから」との答えが返ってきたと言う。町の中心部から北にある魚屋には何時も新鮮な魚介類が並べられている。ある日海から揚がって間もない黄肌マグロが売られていた。マグロはめったに見られないので全部買うことにした。が、持ち合わせが不足していた。
店の人が「不足分は明日持ってくればいいではないか」と言ってくれる。一人ではとても重くて運べない。魚屋のお兄さんは親切にも離れて駐車してあった私の車まで運んでくれた。
その魚屋さんは顔なじみでもなく、私が居住者か、旅行者か分からない一元の客に過ぎないのに、電話番号とか住所を尋ねることもなく、車のナンバーをメモすることもしなかった。