第 2862 号2003.11.30
「 自転車に乗って 」
畠山 直子(甲府市)
夫の転勤で、この地に引っ越してきたのが1ヶ月前。成人した息子は自活しているため、私たち夫婦だけの転居となった。
引っ越しの後片づけも済んだ頃、私は、まず自転車を買った。買い物に便利だと思ったからだ。しかし、買ったのはいいけれど住み慣れない街を走るのは、どうも恐い。駐輪場で出番を待つ自転車を横目で見ながら、歩いて近くのスーパーマーケットを往復する毎日が続いていた。
数日前、マンションの、お隣に住む、私と同年輩の方が声を掛けてくれた。
「自転車、買われたんですね。この前、少し乗ってらしたのを見たものですから。よかったら、ちょっと遠いけど、この先の大きなスーパーまでご一緒しませんか?」
引っ越して間もないし、近所に知り合いがないのは当然とはいえ、少し心細さを感じていた時でもあったので、彼女のこの提案は、とても嬉しかった。「お願いします。」私は即座に、返事をした。
彼女が前を走り、私はあとをついて走った。今まで知らなかった川沿いの道や、閑静な住宅街をぬけてのサイクリングは、私に新鮮な喜びを与えてくれた。「次の角を曲りますよー。」「はーい。」と前後で会話を交わす私たちのまわりを、風が流れていった。
往復で2時間かかったが、思ったより疲れを感じなかったのは、お隣さんが先導してくれたからに違いない。
「きょうはお世話になりました。楽しかった。」
「また、行きましょう。次は、別の道を通って。」
私たちは、スーパーマーケットの袋を自転車のカゴから下した。