第 2859 号2003.11.09
「 一本の電話 」
み の り(ペンネーム)
小さい頃からの、知り合いのおばさんから電話があった。
わかる?覚えてる?笑っちゃう話なんだけど・・私っていつも笑っちゃう話っていうから笑えないんだけど・・今ね、昔のアルバム見ていたらみのりちゃんが写っていてね。アルプスの少女みたいだなって思ったの。そしたらなんかね、ほら、みのりちゃん、就職決まったでしょ。だから何か買ってあげたくなっちゃって。お祝いにね。今電話してても平気なの?そう。ほんとアルプスの少女みたいだったのよ。
じゃあ、何か欲しいもの考えておいてね。また電話するね。
正直、私はそのおばさんと親しいわけではなかった。でも、いろんな事情は知っていた。昔、洗剤を飲んで自殺を図ったこととか、脳梗塞で入院していたことがあったとか。たぶん今、あまり幸せじゃないっていうことも。だから、ものすごく痛々しかった。私にはわかった。
何かに行き詰まっていて、昔を思い出して懐かしくなって、現実逃避したくて。それで、きっと随分迷った挙句、うまく説明できるよう考えて、それから電話をくれたんだっていうこと。
もしかして私の思い違いかもしれない。でも、おばさんの話し方は、たどたどしくってもろくって、やっぱり痛々しかった。
ほんとうはね、今の私の立場だと、おばさんとは親しくできないのだけれど、つっけんどんに突き放したりしないから、何かあったら、また電話してくれても大丈夫ですよって、心の中でそう思った。