第 2851 号2003.09.14
「 アゲハチョウ 」
流 枕(ペンネーム)
庭の小さな山椒の木に今年もアゲハチョウの幼虫が数匹ついた。
蝶や蛾などの幼虫は木の葉を食い荒らし、あっという間に丸坊主にしてしまう。クチナシにつくオオスカシバの幼虫などは特に大食いだ。
私は色々な幼虫がつく頃になると、割り箸で一つ一つ丁寧に取っては潰してしまうのだが、この山椒につくアゲハチョウの幼虫だけは何故かそうする気になれない。
理由は、
①一齢、二齢と形を変えながら蛹になるのだが、何れも擬態が上手であまり大きくなく、よく見るとなかなかに可愛い顔をしている。
②一度に発生する数がそれ程多くない。
③山椒の葉の食い方が何となく慎ましやかで、一挙に丸坊主にする事が無い。
④蛹になる時、頭の部分を自分が出した糸で木に固定し、ひっそりと羽化の時期を待っている。その様子が健気だ。
私は山椒にこの幼虫がつくと、その成長を見守りながら、「あまり葉を食い尽くさない内に早く羽化してくれ」と念じている。
時々やって来る雀やホオジロなどに食われるらしく、羽化できるのはほんの僅かだ。
朝見に行って前日蛹だったところに抜け殻があると、「ははあ、昨夜のうちに羽化したな」と何となくホッとする。
この間、庭に出ていると一匹のアゲハがやってきて執拗に私の周りを飛び回り、そのうち頭にとまったり肩にとまったりし始め、終いには私の鼻の頭にとまった。くすぐったいので追い払ってもちっとも逃げようとしない。
その様子が可笑しいと、見ていた孫達が大笑いしていた。
私は「これは間違いなく我が家の山椒で羽化したアゲハだな」とその時思った。