第 2848 号2003.08.24
「 桃の葉の風呂 」
畑田 実子(ペンネーム)
「おかあさん、かゆいの」
またあせもの季節がやってきた。
ちょっとはしゃいだだけで、すぐ髪まで汗びっしょりになる子供たち。気がつくと赤いブツブツがあちこちに出来ている。
私が子供のころ、少しでもあせもが出来ると、父が庭の桃の木から葉つきの枝を切ってきて、湯船に浮かべて風呂を沸かした。
夏は早い時刻に「桃湯」に入り、まだ薄明るい庭を縁側から眺めながら汗が引くのを待った。まだ小さかった妹が寝苦しくてぐずる夜には、「扇風機の風は毒だ」と言って、父か母がうちわであおぎながら寝かしつけていたっけ…。
先日、久しぶりに実家に遊びに行ったときのこと。子供たちのあせもに目ざとく気づいた母は「あらあら、かわいそうに。今夜は桃のお風呂にしてあげようね。ねえー、桃の葉取れるかしらね?」と父に声を掛けた。桃の木は昔よりもずいぶんと大きくなっている。父はよっこらしょ、と脚立に登り、時間をかけて一抱えもの枝を持ってきた。
お風呂場では子供たちがきゃあきゃあとやかましい。初めて見る桃の葉風呂に、末の子が最初「こわいよう、虫いない?」と尻込みしていたが、今は面白がって大騒ぎしながら兄弟で入っている。
「今夜は暑くなりそうだよ」と母が言った。扇風機は毒だからあおいであげなさいよ。位のことは言われるかと思ったら「クーラーつけて寝なさいよ」。「クーラー嫌いじゃなかったの」「使ってみたら、快適、快適よ。アンタもケチケチしないで使ってあげなさい」。べつにケチで使わないわけじゃないんだけど…と苦笑しつつ、昔と変わらない母の漬物をかじった。