第 2842 号2003.07.13
「 お料理教室 」
河野 佳子(埼玉県所沢市)
フランス料理の教室に通った。
先生はパリの料理学校出身の30代の女性で、ひとクラス数名の小さな教室である。
いろんな驚きの連続。まずなんとまあ手間隙をかけてお料理を仕上げていくことか。玉葱は細かく細かく刻み、バターは数回に分けて加え、ソースもスープも漉したり煮詰めたりとじっくり作る。お塩やリキュールや香草は何種類もの中からその時々に合ったものを使う。スクランブルエッグをこんなに時間をかけて作るとは夢にも思わなかった。生クリームと卵を溶き、弱火でひたすら混ぜるのだ。腕が痛くなった。
盛り合わせの野菜は主役を引き立てるために最大限のドレスアップをする。人参は丁寧に角を切り落とされ、なんとラグビーボール型に変身だ。うまく形にならないからラグビーボールがどんどん小さくなっていく。
素材を丁寧に扱うことにも妥協はない。バニラビーンズはナイフを使って一粒残らず取り出し、ボールで混ぜ合わせた生地や材料はゴムべらでとことんすくって無駄にしない。
盛りつけは腕とセンスの見せどころ。いかにおいしそうに立体的に、そして美しく盛り合わせるか。見るのとやるのとでは大違い…でも難しいけれど楽しいプロセスでもある。ここまでくるとテーブルコーディネートにもこだわらずにはいられなくなる。せっかく作ったお料理、少しでも見栄えのするお皿やクロスと合わせたい。
フランス人の美へのこだわり。それも普通の人が日常的に行っていることだけに、感心すると同時に我が身を振り返り反省だ。お料理がうまくなるようにと通ったはずが、お料理へのスピリットを学ぶこととなった。Art de vivre(生活の美)という言葉の意味が少しわかったような。