第 2839 号2003.06.22
「 野球ファン 」
藤 りか(ペンネーム)
うっとうしい梅雨、日中は蒸し蒸しとした暑さでなんとも気持ちが悪い。それでもようやく夕方頃から、窓辺のカーテンを揺らすそよ風を肌に感じほっとする。
夕食の片付けも終わり、これからが私の自由になる時間で嬉しい。
きょうは何からはじめようかと思いながら、離れを何気なく見ると母は夕餉の後、いつものように、テレビでナイターを見ている影が、電灯に照らされてガラス越しに見える。
巨人軍の大ファンの母は、選手の名前やルールなども良く知っていて、野球にあまり興味のない私は驚かされることがしばしばある。
母は、ここのところすっかり耳が遠くなったため、ボリュームを高く上げて見入っている。球場から伝えてくるアナウンサーの声が急に強く早い口調になり、応援の方たちの歓声と拍手のどよめきが騒々しく聞こえて来た。どうやらホームランが出た様子である。おそらく巨人の誰かが飛ばしたのだろう。アナウンサーの甲高い声に混じって、母の居間からもピチャピチャと何回も拍手が聞こえて来た。小さい手を思いきり叩いているのだろうが、まるで子どもが拍手をしているようで可愛さを感じる。
母が精一杯応援する喜びと笑顔が私にも伝わってきて嬉しくなる。
ことし八十四才の母がいつまでも元気で野球ファンで観戦が出来るように、密かに願っている。
耳が遠いこと以外は、健康で家事も自分でこなし、私は何一つ手助けすることなもく安堵している。せめて一度は、実際の球場で野球を観させて上げたいものだねーと姉妹で話し合っているものの、なかなか実現できない歯がゆさがあるが何とか実行したいものだ。