第 2837 号2003.06.08
「 車に乗った犬 」
長坂 隆雄(千葉県船橋市)
最近は車の窓から身を乗り出している犬を見かける事が多くなった。
愛玩用に犬を飼う人が増え、運転席に同乗させる飼い主が増えた結果であろうか。
実に得意そうに前方を眺めている姿を見るとしぜんに吹き出してくる。
彼らの平素の生活は、せいぜい2-30センチの高度からみる世界が自然の姿である。
併し、車の座席である1メートル近い高度から映る世界は、人間が飛行機からみる下界の印象に匹敵する程、別世界に写るのかもしれない。
人間に較べると、犬は随分と早く走れるとは言っても、車のスピードには到底及ばないであろう。
犬にとって、車に同乗する事は、労力の必要もなく、別世界が展開する実に快適な、楽しい一時に違いない。
我が家の愛犬も同様、息子が訪れると決まったように同乗をせがむ。
車のドアを開くと、瞬時に運転席の隣に飛び乗り、得意そうに前方を見詰める。息子も心得たもので、しばらくは我家の周辺を同乗させご機嫌をとる。
その結果、我家の愛犬は時々訪れる息子には尻尾を振り、全身を震わせて歓待する。時には尊敬の眼差しで息子を見上げる。
朝夕愛犬の散歩を欠かさぬ私だが、今では運転のできない私は全く形無しである。
犬は習性として服従する人の順位をつけると言われている。
かって尊敬と憧れの目で私を見詰めていた愛犬にとって、私は首位の座から転げ落ち、その地位を息子に奪われてしまった訳である。
まあ、良いか、それも時代の流れだと、最近は半ばあきらめの気持ちで、息子の車に同乗して得意そうな愛犬の姿を眺める昨今である。