「 次の人 」
山崎 裕美(大阪府豊中市)
私が新入社員として配属されたのは、社内でも最も仕事の厳しい部署でした。しかしその分周りの先輩はみな優しく仲の良い職場で、新人の私をいつも気遣い仕事を助けてくれました。ただでさえ自分の仕事で忙しいのにと思うとありがたさより申し訳なさが先にたって、「すみません。」と言ってばかりいた私に、あるとき一人の先輩が言いました。「『ありがとう』は言ってもいいけど、『すみません』は必要ないからね。私達だって新人の時は先輩に助けてもらって仕事を覚えてきたんだから、その分を次の新人に返していくのは当然のことなのよ。」
この言葉に感動した私は、自分が受けた親切は必ず次の新人さんに返そうと思いながら、日々みんなに助けられて2年目を迎えました。
ところが、その年の新人さんはとてもしっかりした、仕事のできる人で、かえってこちらが助けられるような始末。ちっとも返せないまま、数年後に退職し、結婚、出産することになりました。
すると私の妊娠を聞いた、私より少し前に母親になった友人が、出産に必要なものや、妊娠中のアドバイスを書いた手紙を送ってくれたのです。出産祝いも先輩ママならではの役に立つ品を選んでくれ、彼女の出産には何もしてあげなかった自分を申し訳なく思いながらお礼を言うと、「昔あなたが、会社の先輩の言葉で『次の人に返せ』っていうのを教えてくれたでしょ。私は自分が出産するときに周りの先輩ママ達にすごく良くしてもらって嬉しかったんだ。そして私にとってあなたが次の人だったんだよ。」と言われたのです。
私は「次の人」は会社だけの話ではないということにようやく気づきました。今まで人生の様々なシーンで受けてきたたくさんの親切を、これからも同じ経験をする人たちに返していきたい。そう思いながら「次の人」という言葉を噛み締めています。