第 2829 号2003.04.13
「 いいなあ。 」
はるひ(ペンネーム)
庭にすおうの木がある。こいピンクと赤紫の中間のような色をした花が、とげとげして細くてすらりとした枝にぽつぽつと咲いているのを見て、いいなあ。と思った。一言で言えば「美しいなあ」という、それだけなのだけれど、なぜかそんな言葉ではうまく言い表せないような気がしてしまう。伝えたいものを自分の思っているそのままに伝えるのは難しいなあと思う。そしてやっぱり、いいなあ。と思うのだった。
同じように庭にある白梅が咲いているのを見たときも、バス停近くの民家の壁ごしに見える、白や紫のグラデーションのモクレンを見たときも、はたまた植木鉢の白いむくげを見たときも、いいなあ。と思った。そう思うたびに写真を撮ることを考え出して、いくらか撮ってもみたのだけれど、やっぱり違うのだ。私の腕が悪いのはともかく、ごくまれにうまく写っているものも、どこか記憶のなかのものとは違っているのだ。
最初に写真を撮ったのが4年ほど前だけれど、いまだに私は花を前にして「いいなあ」とつぶやいて立ちつくすだけなのであった。それもまた、それでいいか、と思い始めたのはいつからだろう。きっと私の記憶力は、そんじょそこらのカメラよりずっと鮮明に花の姿を残すんだわ、なんて冗談半分に考え始めている私である。