第 2824 号2003.03.09
「 サッちゃんの洋服 」
野田 充男(浦安市)
「すてき!」
サッちゃんの洋服を見て、隣の女の子が呟いた。
きょうはサッちゃんの結婚祝賀会。とはいっても、職場の一部署が主催した出席者十数名だけの質素なパーティで、会場も居酒屋の一室。
おまけに大雨。出席者の大半が普段着で来ただけに、サッちゃんのラメ入りの薄いピンクのスーツはかなり目立つ。
パーティは、ビンゴゲーム、カラオケと進んで行き、最後に二人の挨拶になった。
新郎の手短な挨拶のあと、サッちゃんのスピーチが始まった。
「みなさん、本日は私たちのために一席設けていただきまして、ありがとうございました。ほんとうは私たちが披露宴を開いて、みなさんをご招待しなければいけないのに……。訳あって、結婚式も披露宴もできなくて誰もご招待できず、本当に申し訳ありませんでした。だから、職場のみなさんから祝賀会の招待をうけたときは、ほんとうに嬉しかったです。みなさんに結婚の報告ができると。
ところで、みなさんは大雨の中、どうして私がこんな服を着てきたのか不思議に思われたことでしょうね。この服は、一週間前、市役所に彼と一緒に入籍届けを出しに行ったときの服なんです。結婚式をしていない私にとって、この服が私のウエディングドレスなんです。だから、私たちのために一席設けてくれた職場のみなさんには、どうしても、どうしてもこの服を見てもらいたかったんです。きょうはほんとうに、ありが……」
サッちゃんは泣き出してしまった。素直な言葉に、出席者も泣いた。
パーティが終り外に出ると、雨はすっかりあがっていた。二人の門出を祝うように、無数の星がキラキラと美しく輝いていた。