「 春、みいつけた 」
末吉 真幸(鹿児島県川辺郡)
今日も、朝から雪になりきれない氷のような雨が降っていた。つい3日程前は3月上旬の暖かさだ、と言っていたのに、今朝は平均気温を5度も下回ったらしい。暖かくなっては寒さに逆戻り。この季節はこれの連続だ。しかし、これを繰り返しながら、少しずつ暖かくなり、春になってゆくのだ。
この時期になると、決まって小さな頃を思い出す。寒いのが嫌で外に出たがらない私のために、母はあるゲームを考え出した。それは咲き出した花やつぼみ、新芽など、春を感じるものをたくさん見つけた方の勝ち、というものだった。そして、春を見つけた時には大きな声で「春、みいつけた」と叫ぶのだった。私たちはこれを「春みつけゲーム」と呼んだ。
これは楽しかった。水仙の花、ふきのとうの芽、梅の花びら、沈丁花の香り・・・。いつの間にか、私は母の作戦どおり、寒い日も進んで外に出るようになった。寒さと暖かさを何度も繰り返しながら、少しずつ、でも確かに春が近づいてくるのが、心からうれしくて待ち遠しかった。
今、私はその頃の母の年齢に達しつつある。まだ、私には夫もいないし、子供もない。しかし、この歳になって感じるのは、いい時もあればうまくいかない時もある、人生も天気も似たようなものだ。ということ。寒い日と暖かい時を繰り返しながら待ち望んだ春が少しずつ、ゆっくりとやってきたように、私には私なりの春が来るのだ、と信じたい。そして春を感じる時が来たら、その時は昔みたいに、心から思いっきり素直にその幸せを喜びたい。そう思う。
天気予報によると、また2、3日冬に逆戻りらしい。まあそれもいい。
久しぶりに外に出て「春みつけゲーム」をやってみよう。そろそろチューリップの芽が出ているはずだ・・・。
出会いの春、別れの春。不安な春、期待の春。これから来る春がどんな天気になるか、誰も知らないけれど、春よ来い。早く来い!いっぱい春を見つけられるように。