第 2820 号2003.02.09
「 周囲が和んだひととき 」
熊本 照子(甲府市)
その日も病院は混んでいた。
三才、五才位の男の子を連れた母子連れが入って来た。抱かれた幼児は最初の内はおとなしくしていたが、愚図り始めやがて泣き出した。
無理もない。テレビ一台あるだけの待合室が幼児に居心地の良い筈がない。
ふんぞり返り大声で泣きわめく幼児に、母親は困惑し、長い待ち時間にいらいらしていた周囲の者は、一斉に非難の視線を母子に向けた。
待合室は何かトゲトゲしい雰囲気に変わった。
私は何とか静かにしたいと思い、手にしていたパンフレットで紙飛行機を作り兄の方に差し出した。最初はけげんな顔をしていたが、やがてにっこり笑い寄って来て、私が教えてあげた通りにし、上手に飛ばせ始めた。
泣き乍らもじっと見ていた弟の方にも同じものを作ってやると、何時かしら母親の腕をすり抜け、たどたどしく兄の真似をして遊び始めた。不思議なもので今迄迷惑そうにしていた周囲の者も、誰彼となく兄弟に声をかける様になり、二人は益々得意になりキャッキャッと飛び回り、その場の雰囲気もすっかり和やかになった。
今迄固い表情をしていた母親も笑顔で私に会釈を向けて来た。
ほんの一寸した思いつきが、こんなにも多くの人の気持ちを穏やかに変えられたなんて、私自身も驚きうれしいひとときだった。