第 2818 号2003.01.26
「 鬼もウットリ 」
浅野 恵美子(葛飾区)
一月も中旬を過ぎると、スーパーには袋詰の節分の豆が並び始める。
そればかりか、乾燥した豆ガラと柊が、まるで花束のように売られていた。さすがに鰯の頭は付いていなかったけれど。
それにしても、鋸の歯のようなトゲトゲのある柊に、花が咲くということを知っている人間は、どれくらいいるだろうか。実は、私は去年の十一月、生まれて初めてそれを見た。そして、えらく感動してしまった。
十一月の声を聞いてすぐのころだった。私は家の前の通りを掃除していると、金木犀にも似た甘い香りがするのに気がついた。初冬のこんな季節に、どこにも花など咲いていない。きっと風呂に入れた入浴剤の香りだろう。風呂の水を落としたので、下水からほのかに香るのだ。
しかし、日に日にその香りは強くなる。それに一日中香っている。
どうも入浴剤ではなさそうだ。それでは一体何だろう。数日後、その謎は解けた。
我が家の一軒置いて隣の家の高さ三メートルくらいの柊の木の下で、私は何気なく視線を上に向けた。「えっ、柊の花?柊って花が咲くん だ」小さな泡状のような白い花が、無数に咲いている。そして、あの甘い香りも辺り一面に漂っている。
私は毎日、毎日、その木の前を通っていたというのに、今まで全く気がつかなかったのが 不思議なくらいだ。
日に日に寒くなり、花は少しずつ下から零れ落ちていったけれど、年末まで咲いていた。一ヶ月間、我家ばかりか近所中が、柊の甘い香りに包まれて、何となく幸せな気分でいられた。
さて、今私は、鬼が柊の花の甘い香りを知ってしまったら、鬼を追っ払う三点セット(豆ガラ、柊、鰯の頭)の威力が半減してしまうのではないかなどと、バカげたことをひとり考えている。